-
2010.03.23
"Report"from Asahi
"Report" FromASAHI 第24回
-
"Report"From ASAHI No:24「大使というお仕事」
8月のお盆期間。いつもはビジネスマンしか見当たらない汐留のレストランも、この日ばかりは、家族連れの姿が圧倒的に目についた。
夜、知り合いの外交官氏の送別会を開いた。アジア地域の某国に大使として赴任するのだ。決して大国とは言えないが、安全保障問題で大きな注目を浴びている国。「仕事をしたい」と訴えて、赴任が決まったと聞いた。
約束の時間よりやや遅れて、氏はやってきた。席につくなり、ワイシャツのネクタイを緩めながら、「ふーっ」とため息をひとつ。のっけから「いやいや、とっても疲れた」とこぼす。何事かと聞いたら、日中、皇居に行ってきたという。
大使は天皇の信任状なしには接受国に赴任できない。天皇が現れるずいぶん前から、リハーサルを入念にやったという。「ずーっと下を向いて、信任状もらって。顔なんか見えなかった。あれは学生時代の卒業式を思い出させるね」と苦笑いする。
「現地での食事はどうするんですか」と尋ねた。会食が重要な公務となる大使であればこそ、料理人はどうしても必要になる。氏が赴く国には立派なレストランが少なく、自然と大使公邸での食事が大きな役割を担うことになる。
「ちょうど良い腕の日本人が見つかって。何とか僕の財布でも満足してもらえそうなんだ」と嬉しそうだ。料理人の給料は、ほぼその世代と同じ額だという。30代なら30万円、40代なら40万円が相場というわけだ。基本は大使のポケットマネー。3割くらいは補助が出るが、上限額もある。最近の外務省批判の高まりで大使の給料はかなりカットされたという。
食事の中身も大変だ。以前、別の大使から「会食で一番気を遣うのは宗教」という話を聞いたことがある。たとえば、イスラム教の国ではアルコールは現金。ワインの色をしたジュースで代用するという。肉類でいえば、イスラム教なら豚、ヒンズー教なら牛はご法度だ。トンカツやすき焼きなんか出したら国際問題になる。「お客さんがいないときぐらいいいだろう」と気を緩めると、たちどころにお手伝いさんたちが世話話にして周囲に振りまくという。「食事もねえ、案外窮屈なんだよ」とつらそうだ。
肝心の仕事はどうか?たくさんの人と会い、たくさんの情報をいち早く仕入れる。これが目的だという。「僕はねえ、偉そうに踏ん反り返るつもりはないんだ。仕事しなくちゃね」。
その意気や良し。「朝日新聞の記者も現地にいますからね。どうか会ってやってください」と話をあわせた。すると、氏はいたずらっぽく笑った。「そうだね、5番目かな」。
「へー、一番から四番は誰なんです」と突っ込んだ。答えは「1番目は米国政府関係者、2番目は米国のマスコミ、3番目は現地政府関係者、4番目は現地マスコミだね」。
どこの国に行こうと、米国の超大国ぶりは変わらないということか。愉快で楽しい会話の夜も、最後はちょっぴり変な気分で終わった。
朝日新聞社 牧野愛博