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Report from asahi 第29回「政治家のファッション」
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2012.01.30 "Report"from Asahi

Report from asahi 第29回「政治家のファッション」

Report  from asahi  no29(平成17年3月)

 

1月21日、今年も通常国会が始まった。郵政民営化やイラク、北朝鮮など課題は目白押しだが、盛り上がりは今ひとつ。小泉首相の自民党総裁としての任期が06年9月に切れるため、「勝負は来年」と考える政治家が多いからかもしれない。

 そんなことを考えながら、「今年も国会が始まったなあ」と実感したのは、和服姿の議員が目についたからか。和装振興議員連盟は毎年この時期、和服で登院を呼びかけている。

 政治家にとって、服装は自分のイメージを決める大事な宣伝手段だ。米国大統領選では、よく赤いネクタイが「パワー・タイ」として登場する。川口順子前外相の「勝負服」も赤色だった。逆に、その一世代前の田中真紀子元外相は、セーターやフリースといった普通の「庶民服」を好んで使った。永田町で、「彼女はテレビに自分が映る間隔を見計らいながら、同じ服をわざと着ている」という噂を聞いたことがある。テレビを見ている人は「田中さんは数日前と同じ服を着ている。そんなに服をもってないんだ」「服装に無頓着なんだ」と思うだろう、というのだが、真偽はわからない。また、選挙のたびに安い靴とスーツを大量に車に積み込み、田んぼで働く人を見つけると、スーツ・革靴姿のままでジャブジャブと分け入っていき、相手の感動を誘うという政治家もいたという。

 

 私個人の取材体験でいうと、一番印象に残っているのは村山富一元首相だ。「そうかのお」「そうじゃなあ」と大分弁で朴訥としゃべる彼が、私が政治部に入って初めて担当した政治家だった。その素朴な人柄は服装にもよく出ていた。

 当時の首相番記者は、1人に限って、官邸と国会の廊下で歩きながら首相の話を聞くことができた。私も度々名乗りを挙げて、村山さんにくっついていた。とはいえ、経験は浅いし、廊下は短いしで、気ばかり焦る。勢い、ぐいぐい体を寄せて話を聞くのだが、6月のある日、プーンと鼻についた匂いがあった。ナフタリンの匂いだった。若い私は、それまで政治家には少なからず偏見があった。「金持ちだから、服なんか季節ごとに使い捨ててるんだろう」とも思っていた。その日から、少し村山さんが好きになった。

 

 その2か月後。8月9日のお昼前、私は村山さんにくっついて長崎に出張した。原爆慰霊式の日だった。長崎の原爆投下時刻は午前11時2分。その時刻に合わせて式典は開かれる。当日は快晴だった。私は記者席に座りながら、不謹慎にも、流れる汗でシャツがグシャグシャになっていく不快感に閉口していた。ふと、前方に座る村山首相の背中が見えた。白いワイシャツが透けて見えるほど、スーツの生地が薄かったからか、村山さんの首筋には汗一つ浮かんでいなかった。もちろん、村山さんは上着を一度も脱ぐことなく、ひょうひょうと挨拶を終えた。妙に村山さんのイメージによく合う場面で、10年経った今でも、そのときの光景が昨日のように思い出される。

 ああいう、思惑や戦略、下心と関係なく、服装が自然に見えた政治家は、それ以来お目にかかっていない。

                            朝日新聞社 牧野愛博