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“Report” from Asahi  No:31「孔魯明先生」(平成17年5月号)
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2014.02.14 "Report"from Asahi

"Report" from Asahi  No:31「孔魯明先生」(平成17年5月号)

 3月、ソウル市郊外に孔魯明(コン・ノミョン)さんを訪ねた。孔さんは日本大使を務めた後、94年末から2年間外相を務め、韓国きっての「知日派」と言われる。引退された今は、大学の研究機関に席を置き、朝日新聞にも時々、原稿を寄せている。
 私が今回、孔さんを訪ねた理由は2つ。94年当時に朝鮮半島で起きた北朝鮮核危機の思い出話と、今、日韓両国で起きている竹島(韓国名・独島)の領有権問題のお話をうかがうためだった。
 
ソウル中心部から地下鉄で40分。郊外の安養市のビルの4階にオフィスがあった。10畳くらいの部屋の壁一面に本棚が置かれ、日本語・韓国語・英語の本が所狭しと並んでいる。私は取材先に行くと、真っ先に本棚を覗くのだが、なかなか壮観な眺めだった。
 1時間ほど、核問題についてのお話を伺った後、孔さんが「さて、牧野さんはこれからどうするの」と聞いた。「夕方にソウルである出版記念会に行きます」と答えた。「ほー。それは奇遇だ。渡しもそれに参加するんだよ。一緒に車で行こう」と誘ってくださった。

 恐縮しながら玄関を出ると、孔さんは「ちょっと待ってて」と言って駐車場に向かって走って行った。「運転手を呼びに行ったのかな」と思って待っていると、一台のファミリーカーがするすると近づいてきた。運転席に座っているのは、孔さん本人だった。
 「へー。大臣までやった方が、ご自分で運転されるんですか」ともじもじしていると、「さあ、乗りなさい。遠慮することはない」と運転用にかけたサングラス姿でにこっと笑った。約1時間の車中で、今度は竹島の話をした。
 私は「どうやったら静められますか」と問いかけた。孔さんは「対応策はね、2つある。一つは我々は『野焼き』作戦と呼んでいるのだが、刺激的な対応をわざと取って鎮めるやり方。もう一つはひたすらに静かに、自体が落ち着くのを待つ方法だ」と答えてくださった。でも、明確な解決策が見つからないのか、表情は何となく苦しそうだ。

 ふと、孔さんは「韓国の外交はね、私の代くらいから、静かな外交といことを始めたんだよ。相手を刺激せず、実利を追い求める。でも、領土問題で世間は『対応が生ぬるい』と批判する。後輩たちは苦しそうだが、がんばっているよ」と、問わず語りに付けた。 
 竹島問題はおそらく次の世代でも解決できないだろう。だが、今日、突然起きた問題でもない。問題を抱えながらも、お互いに認め合って生きていくことに、人間の美しさがあるのではないか。孔さんの話を伺いながら、そんな事を考えた。
 後日、韓国外交通商部の知人に、「孔先生が、皆さんをほめておられました」と伝えたら、「孔先生は偉大な先輩ですから」と、とてもうれしそうだった。

朝日新聞社 牧野愛博