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“Report” from Asahi No.32 「内政懇」(平成17年6月号)
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2016.06.15 "Report"from Asahi

"Report" from Asahi No.32 「内政懇」(平成17年6月号)

 4月22日午後、インドネシアの首都ジャカルタ。屋内野球場を思わせるよな巨大な会議場のなかで、私は小泉首相が現れるのを待っていた。
 会議場ではアジア・アフリカ会議(バンドン会議)の50周年を記念する首脳会合が開かれていた。私はこの会合に出席した首相を取材するため、前日からジャカルタに来ていた。この日の午後は、我々同行記者団と首相との懇談会が予定されていた。

 首相は外遊に出ると、原則1回は記者団との懇談に応じる。メモや録音も原則許される、いわるる「オンザレコード」というわれる取材で、テレビカメラが入らない以外は記者会見と変わらない。外遊に関係する話題だけでなく、国内の諸事情についても質問できるので、通称「内政懇(談)」と呼ばれている。
 今回の我々同行記者団の興味の対象は、一点に尽きていた。吹き荒れる中国の反日デモを受け、ともにジャカルタ入りしている首相と胡錦濤国家主席がどんな会談を行うのか。それが知りたかった。

 広間の一角に首相の机と椅子を用意し、扇形に囲むように記者団が座った。私の位置からほぼ正面、1メートルぐらい離れて座った首相は国内にいる時より元気そうに見えた。
 懇談冒頭から、首相は日中首脳会談について「友好関係が大事」「関係改善のきっかけにしたい」と前向きな発言を連発した。
 「日本の施設を壊した中国に、謝罪と補償を求めないんですか?」
 質問をした記者に向かって、首相は大きな身振りを交えてこう諭した。
 「そんなに嫌中感情をあおるもんじゃない」
 忙しくペンを動かしながら、私は「ほー、小泉さんもまともなことを言うもんだ」と内心ちょっぴり感心してもいた。
 だが、次の記者の質問で、穏やかだった首相の表情は急にこわばった。
 「靖国神社参拝の問題はどう扱われるおつもりか?」
 首相は「別に」「「わかりません」と短く答えるばかり。気まずい雰囲気で懇談は終わった。

 次の日、首相は、スマトラ沖大地震による津波被害に遭ったナングロアチェ州を視察した。私は首相の姿を目で追いながら、やはり同行していた外務省の幹部氏と立ち話をした。
 「どうしてあれだけ中国との友好歓迎を強調する人が、靖国神社にこだわるんでしょうか?」。幹部氏は「首相の職責を自覚する一方、何十年と続けてきたスタイルを急には変えられない、ということなんでしょうねえ」と苦笑いするばかりだった。
 中国国内の批判を恐れて、謝罪出来ない中国政府にも問題がある。一方で、日中関係の重要性を理解できるのなら、中国人が一番嫌がる靖国神社の参拝を、なぜ止められないのだろう。
 「不戦の誓いで参拝する」と首相は言う。しかし、我々が先の大戦で加害者であったことを忘れていないのなら、まず被害者の言葉に耳を傾けるべきだ。
 記者懇談会で、突然変わった首相の表情に、歯がゆさが残った。

                       朝日新聞社 牧野愛博

平成17年6月の出来事

・マイケル・ジャクソン氏の性的暴行疑惑に無罪判決
・インドネシアで鳥インフルエンザがヒトに感染したことが判明
・日韓首脳会談が行われる。歴史認識は合意せず