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“Report” from Asahi第三回目
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2007.05.10 "Report"from Asahi

"Report" from Asahi第三回目

“Report”from Asahi
No:2 「平壌」・・・・・後編
 
 帰国の前夜、再び夕食会があった。丸い中華テーブルを囲んで食事を摂った。私の座ったテーブルには、平壌テレビなど北朝鮮側のマスコミ関係者が同席した。ホスト役の金容淳(キムヨンスン)・北朝鮮側代表らは、10メートルほど離れたテーブルの主賓席にいた。
 食事が半ばに差し掛かったころ、ふと主賓席を見ると、最初はこわだっていた金氏の顔に赤みが差し、柔和な表情になっていた。「これは」と思い、思い切ってテーブルに近づいた。一礼して「少し話を聞かせてほしい」と切り出すと、運よく「座りなさい」と言われた。だが、問答は散々だった。「国交正常化交渉再開の意思はあるのか」「拉致問題をどう考えるか」と聞いても、「なるべく早く再会される事を望む」「拉致は存在しない」と紋きり調で答えが返ってくるだけだった。
 それでも、直接話が聞けたからと、会場を抜け出して、急いで東京に原稿を送った、翌日の朝日新聞の一面の隅っこに、「本紙記者、金容淳書記に取材」という小さなベタ記事が載った。
 5年前の当時と比べると、今は、当時会えもしなかった金正日(キムジョンイル)が会談に応じ、不満は残るが、肉声で「お詫びしたい」とも言った。当時は「自分が記者をしている間に本当に国交正常化できるのだろうか」とも思ったが、確実に時代は動いている。
 5年前の取材の際、北朝鮮側がホテルに戦後、在日韓国・朝鮮人の夫とともに北朝鮮に渡った日本人の女性、いわゆる「日本人妻」を数人連れてきた。「ご苦労されてきましたね」と声を掛けても、硬い表情をわずかに動かす程度の反応だった。彼女たちが、自由に日本に帰ってこられる時代まで、あとわずかだということを信じたい。
 最近、北朝鮮の関係者に会って話を聞いたら、「電車の中などでは金正日の悪口や政府への批判が出るようになった」との事でした。北朝鮮はお互いがお互いを監視する「密告制度」を採っていますから、知り合い同士でも気を許せません。もちろん、外でも秘密警察が目を光らせていますが、偶然に乗り合わせた人どうし、ついつい不満が漏れてしまうようです。それでもまったく自分の考えをいえなかった昔を考えれば、大きな変化だと思います。
    北朝鮮も、住んでいるのは私たちと同じ人間です。「日本人を拉致した人間」もいますが、殆どは普通の人々です。私も一年間、韓国に留学したことがあります。北朝鮮で生まれ、朝鮮戦争で家族と生き別れた人々とも友達になりました。彼等は日本人と同じように、歌を歌い、酒を飲み、恋をする、普通の人達でした。
    北朝鮮がテレビや新聞向けに流す・「ショーウィンドーのなかの北朝鮮の姿」だけに惑わされず、北朝鮮に住む普通の人たちのことも考えながら、色々な問題を議論してもらえたらうれしいなと思います。
 
                         朝日新聞社 牧野愛博