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“Report” from Asahi第九回目
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2007.12.20 "Report"from Asahi

"Report" from Asahi第九回目

“report” from Asahi”
No:8 「当打ち」
 
 統一地方選挙が日本全国で行われた。私の住む街では衆院補欠選挙も行われた。NHKの開票速報は「開票率0%」で女性候補の当選確実を伝えた。
 なぜ、こういう報道ができるのか?
 報道機関各社が必死になる「当打ち」と呼ばれる“当選速報競争”の所産だ。
 10年前。私も支局勤務時代、参院選挙でこの当打ちをやらされた。「一秒でもいい、他社より速く当選確実を出せ」と支局長に言われた。
 朝日新聞社は「選挙の朝日」とも言われる。支局長は「確実性と速報性で、わが社は定評があるのだ。他社に負けてはいかん」と言う。速報性という点での最大のライバルはNHK。全国に張り巡らせた放送局と大量の人員を動員しての仕事には迫力がある。
 「どうせ、朝刊が出るまでにちゃんと当を当てればいいんでしょ」と分かったような口をきいたら、「バカ」と叱られた。提携関係にあるテレビ朝日の人間が支局に来ていた。私が当を打つと、テレビ朝日がそれを受けて、放映している特別番組「選挙ステーション」で当選確実の一報を流すのだという。支局長は「テレビと連動しているから負けられんのだ」とぶった。
 候補者は3人で定数は2。過去の得票を調べると、所属政党の支持率に大きな差があった。一週間前に行った世論調査でも同様の結果が出た。
 「この状況なら多分、開票直後に当を打たないと負ける」と思った。
 当時は投票締め切りが午後6時。即日開票で、午後7時には一番早い山間部での開票が始まる。一番早く作業が始まる開票所に、地元の通信局記者に走ってもらった。
 国政選挙の場合、都道府県庁の選挙管理委員会が、各開票所から集まった中間集計を総合して、開票作業の合間に「開票速報」を流す。「開票率〇〇%」というヤツだ。しかし、それを待っていては絶対負ける。最初の開票速報は午後9時ごろの予定と聞かされていた。
 一番早い開票所の記者席から双眼鏡で「ヤマ読み」をやってもらった。開票された後、候補者別に分けられた票の多い少ないを読み取るのだ。もう少し待てば、計算系を使った正確な票数がわかるのだが、それすら待てない。
 事前の調査で、その開票所の候補者別得票数と得票率の歴史は、すべて頭の中に入っていた。その数字と大差なければ、まず予想は覆らない。
 当日、投票を終えた人をつかまえて「誰に投票したのか」と聞く“出口調査”をしていれば、もっと確信が持てたのだが、予算の関係でそこまでできなかった。
 午後7時半ごろ、支局でジリジリしていた私の専用電話に、通信局の記者から連絡が入った。「ヤマの割合は60対35対5ぐらいだ」という。間違いない。ちょっとためらったが、当を打った。本社の社会部に電話をして「当選確実」を連絡した。
 後で聞いたら、NHKの方が数分早かったと聞かされた。不思議に悔しくなかった。むしろ、自分が当を打った候補者が本当に「当選」になるまで、気が気でなかった。
 早く当選確実を知ることは、報道方針を早めに固めることにつながる。見出しの取り方、解説記事の中身、今後の政局展望などに大きな影響が出る。政治部時代、選挙結果がもとで内閣が退陣したり退陣騒動を起こしたりした光景を何度も見た。
 と、同時に「当打ち」報道に熱中することへの恐さも感じる。勝ち負けにこだわりすぎることは、選挙では本当に伝えなければいけない何かを忘れさせることにならないか。人は従来、勝負事に関心を持つ動物だ。単純で解りやすい話に集中するのは、ある程度仕方がないかもしれない。政治部でも、不明瞭で分かりにくいことこの上ない「政策」の話より、「選挙」や誰が強いか弱いかを伝える「政局」の話の方が、はるかに読者受けが良い。
 でもそれだけでは拙すぎると思う。5月10日付け(2003年6月号)で1年8ヶ月ぶりに政治部に戻る。7年ぶりになる首相官邸詰めだが、どこまで「つまらない話」を「面白く」伝えるのかが、一つの課題だとおもっている。
 
                       朝日新聞社   牧野愛博