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Report from ASAHI
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2008.06.08 "Report"from Asahi

Report from ASAHI

“Report” from Asahi No:14「珊瑚海での出来事」
 
 9月。61年前に日米機動部隊が初めて航空戦を繰り広げられた豪州の珊瑚海の海上にいた。米国のブッシュ大統領が唱える「大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)」の海上合同訓練を集材するためだ。米国は同時多発テロが起きて以来、核や生物、化学兵器が世界中に広がることを心配している。「例え、正規の輸出入であっても、そんな危ない物は輸送の途中で押収してしまいたい」。そんな米国の思惑から始まった訓練だった。
 午前6時。豪州輸送艦「サクセス」の船底で寝袋にくるまっていたら、「ウェイキー(起きろ)、ウェイキー!」と叫ぶ、陽気なアナウンスで起こされた。自衛隊は日本人の組織らしく、5分前から放送を入れるそうで、こんなところにもお国柄というものが透けて見える。
 洗面を済ませて食堂に行く。通常、報道機関とは協定で、どこの軍隊でも尉官級の扱いをしてくれることになっているのだが、あんまり上等とは言えない食堂だった。ベーコンとパンケーキ、卵を取った。チョコソースかと思って卓上のビンを使ったら、バーベキューソースだった。パンケーキがお好み焼きになったが、味は悪くなかった。
 食堂で、カップルを見かけた。豪州では女性がよく「お婿さん探し」で入隊するんだという。軍も心得ていて、ある程度はカップルでの行動を認めているんだという。夜、食後のコーヒーを飲んでいるとき、人なつっこい笑顔の黒人女性兵に、「ティムタム」という豪州で凄く有名なチョコレート菓子をもらった。なんて日常に近い光景なんだろう。軍と民間の垣根が低くなっている。そんな感じがした。
 午前8時、やっぱり女性兵にもらった日焼け止めクリームを顔にベタベタ塗りたくって艦橋に出た。遠い洋上に標的となる、米軍がチャーターした貨物船が見えた。右側を豪州のフリゲート艦「メルボルン」、左側を米国のイージス駆逐艦「カーティス・ウィルバー」が航行していた。どの船も一番目視しにくいと言われるグレーの色で統一されている。
 そこに、一隻だけ白い船体が見えた。日本の海上保安庁の巡視船「しきしま」だった。過去、欧州からの核廃棄物を運ぶ運搬船の護衛として作られた世界最大級の巡視船。特殊任務につくことが多く、船長の名前も公開されていない。そんな特別な船なのだが、やはり白い船体は目立つ。
 米国はこのPSIを戦争前の平時に行うと想定している。であれば、この行為は軍事行動ではなく警察権の行使に他ならない。北朝鮮も刺激はしたくない。日本側が出した結論は「自衛隊ではなく海保の出動」だった。
 ところが問題はこれだけでは終わらない。海上保安庁は法律で軍事行動が禁じられている。戦前への反省が原因のようだ。今回は米軍も豪州軍も出動している。困った日本は色々と細工をした。軍以外には各国の沿岸警備隊を出してもらった、情報のやりとりはするが一緒に臨検行動は取らなかった、報道陣には「演習」という事場をやめて「訓練」と説明した・・・等々。
 午前10時20分。「しきしま」からヘリコプターが飛び立ち、貨物船の船上に到達した。一本のロープが垂らされ、黒ずくめの格好をした隊員たちが降下を始めた。昔ドイツ軍がかぶっていたようなヘルメットに、顔を隠し目だし帽。手にはサブマシンガン、腰には手錠をつけた彼らは、SST(スペシャル・セキュリティー・チーム)と呼ばれる部隊だ。詳しい訓練の概要や装備品、氏名は一切秘密になっている。彼らは船橋で船員を拘束、船長を尋問して科学兵器を押収。12時過ぎには訓練は無事終了した。
 実は、日本にはこうした特殊部隊がもうひとつある。自衛隊がつくった特別警備隊(特警隊)だ。99年の能登半島沖の不審船事件の後、海上保安庁と海上自衛隊との調整がうまくいかず、新しく誕生した。まだ実戦経験はなく、その実態はベールに包まれている。「海保も同じようなものを持っているからねえ。税金の二重投資かもしれないね」。関係者からはそんな声も聞こえてくる。
 こうした実態を見てみると、「どうして日本はこんなに複雑なんだろう?」ち思いたくなる。「自衛隊が最初から行けばいいのに」。「いやいや、訓練への参加自体が間違っている」。そんな声が現地の報道陣からも漏れていた。私の第一印象も「もっとすっきりすればいいのに」だった。
 でも、訓練を見ながら、あれこれ考えていたら、「このゴチャゴチャしたところが、日本が持つ課題を示してくれているのかも」という気持ちになった。米国や豪州のように、くったくなく軍人たちが当たり前のように参加する世界。それも良いだろう。でも、戦後、軍事を拒否してきた日本人には、外国のような軍事知識も、関心も無い。(大体、自分自身が艦内での出来事にいちいち興奮していた)
 そんな状況で、それこそすっきりした結論なんか出したら、かえって後悔するんじゃないかと思う。脅威がある以上、日本人は軍事的な知識も関心も持つ努力をしなければいけない。そうすることで、憲法9条が持つ大切な意義も確認できる、生かし方もわかるというものではないだろうか。
 色々考える材料を提供してくれた「サクセス」に感謝をして、PX(艦内の売店)で「サクセス」の艦影を彫ったプレートを買った。自宅に飾ることにした。
 
朝日新聞社 牧野愛博