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”Report” From ASAHI第十八回
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2008.10.18 "Report"from Asahi

”Report" From ASAHI第十八回

“Report”FromASAHI 
N0:17「自衛隊イラクへ」
 
 「あの防弾チョッキは最新型ですね。私たちの部隊じゃ見たこともない。よっぽど気合が入ってるんだなあ、ってテレビ見ながら思いました」
 一月のある夜、陸上自衛隊の知り合いが、酒を飲みながらつぶやいた。イラクに派遣された陸自先遣隊について感想を語ってくれたときのことだ。今回のイラクは件は、自衛隊を国内外にアピールする絶好の機会。“隊員を死なせてはいけない”という判断は勿論だが、そういう計算もあるんだろう。彼はそんな風に「最新型防弾チョッキ」が支給された背景を解説してくれた。
 彼は続けた。「一緒にテレビ見てた若いやつが、しきりに、“良いな、俺も行きたいな”って言うんですよ」
 イラクに行けば、特別手当が出る。サマワの宿営地の外で警備に当たれば、一日最高2万4千円、イラクの空港を輸送業務で発着する航空自衛隊員にも、一日最高1万6千円が支払われる。カンボジアのPKOでは、日本に戻ってきて新しい車を買った隊員が大勢いたそうだ。航空自衛隊では、花形とされた「ファイター」と呼ばれる戦闘機乗りに代わって、輸送機乗りが人気職種になりつつあるという。自衛隊は海外での武力行使が禁じられている。従って、海外に出る自衛隊員の仕事は輸送とか施設整備とか、本来裏方とされている任務が主になる。航空自衛隊の場合なら輸送機のC-1やC-130に出番が多く回ってくる。「C-130に乗っていれば、いつか海外に行ける」。そう志望動機を話す若者が多いと聞いた。
 一方、家族は心配している。朝日新聞には一人で派遣反対の署名を集める女性の記事が載っていた。知り合いの自衛官の多くはこう言った。「自衛官の妻なら、“もしもの場合”を覚悟して結婚したはずです。あれはそういう教育ができない自衛官が悪いんですよ」
 酒の席は二次会に変わり、時計は12時を回っていた。陸上自衛官は、真っ赤な顔でつぶやいた。「私は北海道の部隊にいたこともあるんです。あのころはソ連の上陸に備えた訓練ばっかりやっていたなあ」。そういえば、明日にも攻めてくるかという冷戦時代の緊迫感のなか、海岸では隊員ごとに、自分が掘る塹壕の位置まで決まっていたという話を聞いたことがある。彼のつぶやきは、めまぐるしく変わっていく自分の任務の中身に、当事者ですら追いつけない戸惑いの声のように聞こえた。
 幸い、今のところイラクの自衛隊には何事も起きていない。首相官邸の知り合いは「基地の回りには防護壁を何重にも用意してある。自爆トラックも突っ込めまい。あの基地のなかにいる限り、まず死者が出る心配はないだろう」と予測して見せた。
 何となく、ふわふわした空気のなか、時間が過ぎている。国会も「派遣が決まった以上は隊員の無事を祈ろう」とか、情緒的な意見が増えてきたような気がする。
 当面決まっている派遣期間は今年12月14日まで(平成16年)まで。延長の可能性もある。イラク派遣はまだ始まったばかりだ。自衛官の無事は無論のこと、派遣の是非について考える努力を絶やしてはなるまい。
 
朝日新聞社 牧野愛博